ボクシング界にいた、リアル伊達直人

東京スポーツ 平成23年(2011年)1月19日(水曜日)

ボクシング界にいたリアル 伊達直人

児童養護施設などに物資を寄付する。”タイガーマスク現象”が全国的に広がっているが、心優しき「伊達直人」はボクシング界にもいた。元東洋太平洋ライト級王者の坂本博之氏(40)だ。現在、ジムを経営しながら全国の養護施設を精力的に回っている。自身も養護施設出身で、現役時代から傷ついた子供たちへの支援活動に尽力してきた。その坂本氏から本紙に明かした支援活動の”真実”とはー。

独占取材 タイガー現象先駆者が語る真実

元東洋太平洋チャンピオン 坂本博之

私自身が養護施設出身

現役時代に「平成のKOキング」と呼ばれた坂本氏は、2000年前後のライト級戦線を沸かせた名ボクサーだ。00年10月には当時のWBA世界ライト級王者・畑山隆則氏(35)に挑戦。敗れはしたが、この一戦で同年度の年間最高試合に輝くなど、強烈なインパクトを残した。坂本氏の生き様は漫画「タイガーマスク」の主人公、伊達直人そのものだ。幼少時に児童虐待を経験し、少年時代を地元の福岡県内の養護施設で過ごした。00年7月に養護施設を対象とした支援基金「こころの青空基金」を設立すると、07年7月の現役引退後に支援活動を本格化。全国の養護施設を訪問し、お菓子などを差し入れするだけでなく、自らミットを持って”拳の対話”を行ってきた。

「拳の対話」で支援活動

坂本氏 今まで40か所以上は回りましたね。本州はすべて車で回ってるんですが、車を買い替えて2年間で3万2000キロは走っています。地設の子供たちには「いろんな思いを挙に乗せて、ミットを目掛けて打って来い」と投げ掛けるんですが、手にたばこの消し跡がある子はたくさんいるし、顔に傷がある子もいます。涙を流してミットを打つ子もいる。子供たちは愛情が欲しいんですよ。「熱をもって接すれば熱をもって返ってくる」。運命は自分自身の手で、切り開けるんだと言うことを教えていきたいと思います。昨年8月、東京・西日暮里駅前に「SRSポクシングシム」をオープンさせた。「SRS」とは「スカイ・ハイ・リングス」(天まで届く支援の輪)の略で、支援活動を通じて出会った鹿児島市の養護絶設出身者も2人在籍し、世界王者を目指して汗を流している。今月28日には施設出身の錨(いかり)吉人(21)がジムのプロ第1号として、後楽園ホールでデビューする。坂本氏 僕は日本と東洋の王者になりましたけど世界王者の称号はもらえませんでした。世界王者をつくれるように頑張りたいと思います。(錯には)熱い試合をしてくれることを望んでいます。とにかく彼らには、熱い練習をしたら熱い試合ができることを味わってもらいたいですね。

施設出身の世界王者育成

そんな坂本氏は一連のイガーマスク現象”を「ものすごくいい循環だと思いますね」と評価するが、長年にわたって個人的に支援活動を行ってきた”先駆者”としての提言も忘れない。坂本氏 支援する側が良かれと思っても、実際は違う場合もあります。ランドセルならいいですが、お米や野菜を知らない人からもらっても、受け取りづらいでしょう。与えられる人たちの気持ちも考えて支援してほしいですね洋服のお古を「いらなくなったからあげる」というのは「古くなったから差し入れするの?」という話になる。そういったところを考えていただければ、もっといい循環になりますね。現役時代は猪突補追のファイトで人気を博した”リアル伊達直人”は、タイガーマスク現象を冷静に見守っている。(小野慎吾)

メッセージで埋まった横断幕の前でポーズを取る坂本氏。手にした色紙には自身の熱い思いが記されていた(カメラ・大森裕太)

【タイガーマスク現象とは】全国の児童養護施設などに、漫画「タイガーマスク」の主人公「伊達直人」を名乗る匿名の人物からランドセルや食料などの差し入れが殺到している。昨年12月25日に群馬県中央児童相談所にランドセル10個が贈られたことを皮切りに、全国各地の施設などに匿名の差し入れが届けられ、今月12日時点で全国47都道府県すべてで寄付行為が確認された。最近では「失吹丈」「星飛雄馬」など、ほかの人気漫画の主人公を名乗るケースも相炊いでいる。

さかもと・ひろゆき 1970年12月30日生まれ。福岡・田川市出身。幼少時に両親が離婚し、福岡市内の養護施設で過ごす。高校卒業後、角海老宝石ジムに入門。91年にプロデビュー。93年には12戦全酸(10KO)で日本ライト王座戦に挑み、ベルトを獲得。世界王座の夢は果たせなかったが、4度目の挑戦となった2000年のWBA世界ライト級王者・畑山隆則との一戦は年間最高試合に選ばれた。07年に引退。10年8月にSRSボクシングシムをオープンする。現役時の通算成績は47戦39勝(29KO)7敗1分け。