虐待された子どもたちを支援する元プロボクサー

朝日小学生新聞 2010年(平成22年)11月12日(金曜日)

虐待された子どもたちを支援する元プロボクサー
坂本博之さん(39歳)

強力なパンチで相手を圧倒し、「平成のKOキング」と呼ばれた元プロボクサー。日本、東洋大平洋ライト級王座を獲得しました。

子どものころに虐待を受け、児童養護施設で過ごしました。全国の施設を周り、同じように傷ついた子どもたちをボクシングではげます活動を続けて十年が過ぎ、今年八月、東京都荒川区にボクシングジムをつくりました。施設出身の練習生や地元の小学生ら約八十人を指導しています。

悲しみやくやしさをこぶしにこめた子どもたちのパンチを受け止めたり、目標に向かって生きる大切さを語ったり。「虐待するのも守るのも大人。自立できるよう、そうじやあいさつなど礼儀を教えています」

小学校低学年のころ、両親の離婚で弟とともにあずけられた家では食事を与えられませんでした。平日は給食、休日はつり人に魚をもらったり、ザリガニをつかまえて食べたり。ほうきでたたかれ、冬に外で夜を明かすこともありました。

栄養失調でたおれた弟のようすに気づいた学校の先生が通報し、施設に入りました。テレビでボクシングの試合を見たとき、大歓声の中で戦う男と男の真剣勝負に、「光があふれているように見えました」。

世界同級タイトルマッチに四度挑戦しましたが敗退。マスコミから引退をほのめかされたとき、幼いころ過ごした施設の子どもたちにはげまされました。「人を信じることができた。今日を大切に生きた積み重ねが自信になる。やりたいことに向かって全力でぶつかってほしい」

(森島 龍)